幕間 乱痴気騒ぎ しのぶ
⚠悪ふざけPart2
番外読んでるとわかる部分が出てきます

「お、来たな。よお待ってたぜ」
 禰豆子の成人祝いと不死川とカナエの結婚祝いという名目の宴会をやるために、バーを開いたばかりの宇髄は快く店を貸してくれた。
 成人祝いは特に必要ないと遠慮する禰豆子は、炭治郎の兄弟子たちから言い含められて困りつつも承諾した。炭治郎がカナヲを連れてくると言うと、せっかくだからとお付き合いをしている我妻善逸も連れてきて楽しむことにしたようだった。
 不死川兄弟とカナエ、他の参加者はまだ来ていないらしく、しのぶら鱗滝道場の面々と善逸、そして従姉妹のカナヲが一番乗りのようだった。
「本日貸し切りですって。酔い潰れても知り合いだけですから安心ですね」
 掛けられたプレートを眺め、先頭にいた義勇が扉を押すと、冒頭の言葉をかけてきた宇髄が目に入った。
 そっと扉を引き戻して閉め、義勇とともにしのぶも黙り込み、何事かと疑問符を掲げる背後の四人を振り返った。
「全員逃げろ」
「ここは私たちで引き留めますから」
「俺様から逃げられると思ってんのかよ」
 何年か前に一度だけ見た宇髄の酔っ払い姿は、あの日のトラウマをまざまざと思い出させてくれた。何ですでに酔っているのだろう。
 素早い動きで義勇の腕を掴もうとするが、酔っ払いと素面の戦いではやはり素面が優勢のようで、なかなか掴まえることができていない。
「冨岡さんじゃないですかあ! いらっしゃい、さあさあこちらへ!」
「さあ入った入った! 店の前で揉み合いしてんじゃないよ!」
 敵は宇髄だけではなく、いつの間にか両隣から割り込んできた須磨とまきをに片腕ずつ拘束され、義勇は引きずり込まれてしまった。そっと肩に置かれた手にしのぶの顔は能面になる。
「ごめんなさいね、でも今日はおめでたい席だから。天元さま楽しみにしてたのよ」
 宇髄の妻である最後の一人、雛鶴もまた楽しそうな顔をしている。わかりやすくテンションの高い二人と違い、雛鶴はあくまで落ち着いた様子でしのぶを逃がさないよう捕まえている。この人が一番信用ならない気がした。
「あの……彼らを逃がすことは」
「あら、主役なんでしょう? だめよ、楽しんでってね」
 嫌な予感がしたのか、炭治郎とカナヲは冷や汗を流し、禰豆子と善逸の顔色は青くなっていた。
「それで、何でもう始めてるんですか」
「始めるつもりはなかったけどよ、須磨が俺の飲み物すり替えてやがってな。それは良いんだが、梅酒割り以上のやつ飲まされてよお。今凄え気分良いんだよ。たった二杯だぜ」
「カクテル作りの練習してたんですよ。で、試してもらおうとすり替えちゃいました」
 すり替える必要はあったのだろうか。
 ちらりと義勇を見上げると、読めない無表情が貼り付いている。ひょっとして身の危険でも感じているかもしれない。
「お願いですからこの子たちにはやめてくださいね」
「お子ちゃまにこんなことさせねえよ。まあ冨岡潰しにはもってこいだよな」
 宇髄が酔うのならば、義勇も後ほど来るはずの伊黒も確実に酔うことはわかっている。あの時の醜態で懲りていたはずなのに、酔い始めると宇髄は更に距離を詰めてくる。
「とりあえず、座っても? 炭治郎くんたちはどこに座ります?」
「あ、俺たちはカウンターの端っこに……」
「では私たちは後ろのテーブルに座りましょうか」
 カウンターに座らせるのは少し不安になったものの、宇髄の標的はあくまでしのぶたち同年代のようである。何かあっても真後ろのテーブル席から動けばどうとでもなるはずだ。潰されさえしなければ。
 距離を取らねば危険なのはむしろしのぶたちのほうではないか。
「当店一押しのドリンクです」
 カウンターに座る炭治郎たち四人にはまきをが、テーブル席には雛鶴が飲み物を運んでくれた。当たり前だが見た目ではどんな飲み物かはわからない。
「焼酎の梅酒割りです」
「初っ端からアクセル全開ですね!」
 今すぐ酔っ払えと宇髄の思惑が溶け込んでいるようなグラスが二つ、手持ちのトレーからテーブルへと移動された。宇髄の悪酔いは前より悪化していないだろうか。
 同じ色の液体が入ったグラスが仲良く並んでいる。
 しのぶが酒に強くないことを知っているはずなのに、宇髄は誰であろうと潰すつもりでいるらしい。本当に炭治郎たちは大丈夫だろうかと不安になった。
 まあ、いくら酔っていようと意識ははっきりしているようであるし、一度言ったことを反故にするような性格ではないことは知っている。彼らに関しては大丈夫だろうと信じることにした。それにしたってしのぶたちへの殺意が高すぎる。
「よーし、じゃ一回目の乾杯な。ええと、禰豆子の成人祝いだな!」
「あ、はい、ありがとうございます」
 グラスを掲げて乾杯の音頭を取る。全員がグラスを傾けた。しのぶはアルコールのきつさに思いきり顔を顰めた。
「きついならやめておけ。俺が飲む」
「酔うまでそれしか出さねえからな」
 釘を差された義勇の眉間に皺が寄る。つまみを差し出した雛鶴に礼を伝えつつ、料理を挟めば少しは酔いを遅らせることはできるだろうと言って、しのぶは梅酒割りを舐めるようにちびりと口にした。
「あ、甘くて美味しい!」
「お前らにはちゃんと気分良く酔えるやつ出してやるからな。それで酔っ払ったら知らねえから」
 禰豆子の嬉しそうな声に安心したしのぶは、出された生ハムをつまみ始めた。
「こんばんはあ。あ、もう始めてるの?」
「お、やっと来たな。遅えから始めちまったわ」
「おォ……邪魔したなァ」
 カナエに続いて店内に足を踏み入れた不死川は、宇髄の顔を見て踵を返した。まきをが腕に絡みつき不死川の行く手を阻んでいる。ともにやってきた弟の玄弥はえ? とよく分かっていないようだったが、不死川の凶悪な顔が更に強張っていた。
「何で酔ってんだよォ! トラウマしか過ぎらねェんだけど!」
「騒ぐなら飲んでからにしな! とびっきりのお酒用意してるからね!」
「俺だって自分から酔ったわけじゃねえし。仕組まれたんだよ」
 騒ぎ倒す不死川をカウンターに座らせ、カナエを隣に来させた。玄弥は端で手招きをする炭治郎のそばまで近寄ってくる。
「どうしたんだよ、兄貴は?」
「うん、良くわからないけど宇髄さんは酔うと大変みたいなんだ」
 良からぬことがあるのは察しているが、詳しく知らない炭治郎は困ったように笑うだけだった。お前たちには被害はないはずだ、と義勇が口にする。
「義勇さんたちのお酒、物凄い強いお酒らしいんだ。宇髄さんは酔わせようとしてるらしくて」
「飲みてえなら出してやるけど」
「いや、俺たちお酒に強くないので」
 慌てて首を振る炭治郎に、宇髄はおう、と返事をして準備をしている。成人したばかりの子たちには本人が欲しいというならばこの凶悪なお酒を出しても良いらしいが、基本的には提供するつもりはないと言った。
「今日はお前らの先輩がへべれけになってる様を眺める会だよ。高みの見物しとけ」
「俺にも気を遣えェ!」
「お前はだめだって。胡蝶も梅酒割り飲んでんだから諦めろ」
 こちらへ顔を向けた不死川にグラスを見せると、大きな溜息を吐いて項垂れた。カナエは見たことがないので興味津々のようだったが、しのぶと同じく酒には強くない。
「宇髄くんも義勇くんも酔っちゃうんでしょう? とんでもないわね」
「こんなもん飲んだら死ぬわァ」
「今日はこれしか出さねえからな」
 宇髄が二杯でこうなっている須磨印の酒が出ないだけましにも思える。一体何をブレンドしたのか、しのぶはほんの少しだけ興味があった。飲む気はさらさらないのだが。
「ん、伊黒が駅着いたって。そろそろ来るな」
 宇髄のスマートフォンに連絡が入ったらしく、操作しながら口にした。
 それを聞いた義勇がひっそりとスマートフォンを操作し始める。隣で覗き込むと錆兎からももうすぐ着くと連絡が来ていたようだった。
 宛先を錆兎と伊黒に指定して、文字を打ち始める。しのぶは画面を眺めながら笑みを浮かべた。
 恐らく徒労に終わるだろうが、義勇の気遣いは良く理解できた。
「須磨、迎えに行ってこいよ。駅方面歩いてれば鉢合うだろ」
「はーい! 行ってきます!」
 その言葉を聞いた義勇がしのぶを見つめた。義勇の眉がハの字になっている。送信完了の文字が映し出された画面をちらりと見て、しのぶは苦笑いを向けた。


伊黒視点

⚠様子のおかしい不死川がいる


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